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2001/11/15
- なんだこれは
このサイトをご覧になった珪藻の専門家の方は,おそらく一人残らず内容のあまりのひどさにあきれ返ると思う。画像の質も最悪だし,何よりも同定の間違いが多すぎるはずである。下手すると半分近く間違っている可能性もある。思わず笑ってしまうようなとんちんかんな間違いも1つや2つではないであろう。実際私自身あまりのひどさに制作途中で一度公開をあきらめて投げ出してしまったのである。ではなぜこんなものをいわば「大恥覚悟で」公開することにしたのか,これにはちょっとした出来事があったためである。
- クレーム
かつて私は,自分のHPを作りたいという単純な理由から「淡水プランクトンのページ」なる,あまりまともでないものを公開したことがある(いまもあるけど)。私の手元にある淡水プランクトンの写真をのせ,簡単な説明をつけたもので,ちょっと目には「図鑑もどき」にも見えるものだが,予想通り,いくつかクレームがきた。その中で特に手厳しいものが2つあった。まず「大学で藻類の研究をしている者」氏のクレーム。「あなたのHPはお話にならない。(同定や記述が)正しいかどうかもわからないような情報をネット上にたれながす行為は許されるものではない。実際あなたのHPには誤りがたくさんある。」というものであった。次に「某大学某研究室(植物分類学)のK」氏のクレーム。「文献を調べていないとか電子顕微鏡を使っていないから種類がわからないなどというのは理由にならない。」というものであった。確かに両方ともそのとおりではある。しかし少し納得できないところがあった。そもそもシロウトが完璧な「インターネット淡水プランクトン図鑑」を作ることなど無理な話で,こういうことは専門家しかできないことだが,現実には日本国内には私の知る限り,まともな「インターネット淡水プランクトン図鑑」は全く存在しない。「大学で藻類の研究をしている者」氏に対し,私は,「このようなHPの公開が許されないというのなら,あなたが専門家なのだから,あなたが「インターネット淡水プランクトン図鑑」を作ってください。そのような図鑑を必要としている人はたくさんいる。」と返事をしたが,それに対する返事はなく,また,「インターネット淡水プランクトン図鑑」も出現していない。また,K氏のクレームには正直言って少しあきれた。豊富な文献が近くにあり,高度な機器に囲まれて何不自由ない環境で研究を続けていると,感覚がマヒしてしまってそれが当たり前だと思ってしまうのかもしれないが,何の設備も持たないシロウトには電子顕微鏡だの遺伝子解析だのは全く「別世界のこと」なのである。また,調べるべき文献全部に目を通すことなど,これもシロウトには不可能である。たとえばK氏は,全く専門外のこと,たとえば「藤原道長の人物像」という課題を調べよといわれたとき,全ての文献を調べられるのであろうか。「御堂関白記」をはじめとする多くの史料や古文書,道長のことに触れた数多くの書籍,歴史学に関する学会(どんなものがあるのか知らないけれど,1つや2つではないであろう)の学会誌,大学,博物館,研究機関などの紀要や研究報告,市販の歴史雑誌,さらには民間の研究会の会誌など,目を通すべき文献は膨大な数に上るであろう。とてもシロウトの手におえるものではないではないか。K氏のように大学にいるのなら,知り合いの歴史学の教授にでも相談するという手もあるだろうが,一般人にはそれすら出来ない。K氏に以上のような返事をしたが,これに対しても返事はなかった。しかし,ここから容易に想像できることは,私の「淡水プランクトンのページ」に対し,快く思っていない専門家がかなりいるであろうことである。不快に思ってもわざわざクレームをつけてくるヒマな人はそうはいないであろうから。それならは,このあきれた内容の「淡水珪藻図鑑もどき」を公開することによって,専門家の中に,「こんなものをのさばらせてはいかん。自分がまともなものを作ってやろう」と思う人が出てくるのではないか,そう思ったのである。
- 「淡水珪藻図鑑」の必要性
海洋微小生物は海に行かないと採集できないが,淡水微小生物は日本国内どこにいても容易に採集できる。しかも興味ある研究テーマには事欠かない。したがって,小中学生のクラブ活動での研究や,夏休みの自由研究には最適の材料の1つである。さらに,淡水に限らず,微小生物は生態系を根底から支える極めて重要な生物群であり,これの理解,研究は極めて重要で意義深いものである。ところが,いざ種類を調べようとなると,市販の図鑑類は少ない。特に珪藻に関しては事態は深刻である。「日本淡水藻図鑑」にも,「淡水藻類写真集」にも珪藻だけがスポッと抜けていて,まともに使える珪藻図鑑は皆無なのである。野鳥,蝶,陸上植物などは,大きい図鑑からポケット図鑑まで数多くの図鑑が出版され,種類を調べるのにはまず困らないのに比べると,まさに「雲泥の差」である。このことはネット上でも同じで,蝶などを扱ったサイトは非常にたくさんあるのに,少なくとも日本国内でまともな「淡水珪藻図鑑」は,私の知る限り全く存在しない(→待望の専門家の先生による電子珪藻図鑑が出来ました。追記その2を見てください)。これは非常に困ったことではなかろうか。専門家なら洋書や学術雑誌などで種類を調べるのには困らないであろうが,まさか小学生に「Krammer & Lange-Bertalot の図鑑」を勧めるわけには行かないであろう。そればかりではなく,残念ながら日本には珪藻の入門書すらほとんどないのが現実である(「珪藻の世界」が科博から出ているが,これとて一般の書店で手に入るものではない)。学会誌や大学紀要などに立派な図譜や総説が載ることがある。しかしそのようなものにいくら記載が積み重ねられてもそれは専門家だけが見るもので,シロウト(もちろん理科の先生などのいわば「セミプロ」の人は除く)にとっては「何もない」のと同じなのだ。シロウトにとっては,図鑑など市販の書籍が唯一の頼りなのである。生物の分類は生物学の基本中の基本である。なにも分類学や生態学ばかりではなく,生化学,分子生物学,生物工学などの研究でも実験に用いた生物の名前が間違っていたり,何だかわからないでは話にならないであろう。この意味からも優れた図鑑は絶対必要であろう。せっかくこれだけいい材料が身近にあるのに,適当な図鑑がないために調べることが出来ない,もったいない話である。
- 「インターネット淡水珪藻図鑑」の利点
さすがに,これではいけないことは専門家の先生方も十分わかっているようで,現在珪藻図鑑が製作中とのことである。ならば,その図鑑が完成し出版されたら,別にインターネット珪藻図鑑などなくてもいいではないかと思う人もいるかもしれない。しかし,私はそれでも必要と考える。まず,出版される図鑑はおそらく数万円はする高価なものになるであろうと予想される。なかなか気軽に購入できるものではない。また,図書館などから借りて使うのは不便である。他の人が借りてしまったりして,常に借りられるとは限らないし,大きな図書館でなければ図鑑そのものが置いていないであろう。このようなとき,「ネット図鑑」があればだいぶ助かるのではなかろうか。さらに,ネット図鑑には書籍の図鑑にはない利点がある。それは改訂がきわめて容易に行えることである。書籍図鑑は一度出版されてしまえは改訂版を出すのはなかなか大変であるが,ネット図鑑ならば直ちに改訂できるのである。哺乳類や鳥類なら新種発見はイリオモテヤマネコやヤンバルクイナが発見されたときのように新聞に大きく載る大ニュースになるが,それと反対に珪藻の新種記載などはごく日常的な出来事である。それだけに,ネット図鑑の持つ意味はいっそう大きくなると考えられるのである。「インターネット図鑑」が出来たら書籍図鑑など売れなくなってしまうと考える人もいるかもしれないが,私は全く逆だと思う。珪藻に限らず「インターネット図鑑」で興味を持った人はおそらく書籍図鑑を購入しようと思うはずである。なんといってもじっくり調べるためには書籍図鑑はなくてはならないものである。興味を持つ人を増やすという点からも「ネット図鑑」の意味は大きいであろう。
- シロウトには無理?
珪藻の同定は確かにわかりにくく難しい。シロウトには無理だと決めつけている専門家もいる。しかし,私は決して無理ではないと確信する。このサイトのひどい内容を見れば,「やっぱりシロウトには無理じゃないか」と思う人もいるかもしれない。しかし,これは私の知識不足,プレパラート作成のまずさ,観察眼の鈍さ,形態識別能力の低さ,文献の読解力のなさといった個人的能力の低さに由来するもので,決してシロウトには不可能であることを意味するものではない。「下手すると半分近く間違っている」と最初に書いたが,逆にいえば,こんな私でも「半分は当たっている」のである(別に根拠はないけれど)。私自身珪藻の同定を試みて,決してシロウトに不可能なものではないと確信した。小学生にだって十分可能であると思う。確かに限界はある。種の決定に電子顕微鏡が必要なものも数多く,それは設備を持たないシロウトにはどうにもならない。しかし,電子顕微鏡がなければ全くだめというわけではなく,「数種のうちのどれか」というところまでは絞り込めるのがほとんどであろう。先ほどのK氏などは,おそらく「電子顕微鏡も使っていない研究なんか意味がない」と言うであろう。しかし,はたして電子顕微鏡さえ使えば同定は完璧なのであろうか。珪藻で有性生殖が詳しく調べられた種はそう多くないらしい(何で読んだか忘れた)。だとすれば,繊毛虫で見られる Syngen のようなものが珪藻には絶対無いと断言できる人はいないのではなかろうか(実際見つかっているのかどうかは知らない)。もし,珪藻で「Syngen」が発見され,しかもそれが完全に「種」と呼んでいいほどに分化していて,その上生態性まで違っていたとしたらどうなるであろう。「電子顕微鏡も使っていない研究なんか意味がない」のなら,光学顕微鏡や電子顕微鏡などを使った形態観察だけによる同定をもとにしたフロラ研究,水質判定の研究,古環境の推定復元研究なども全部無意味なものになってしまうのではなかろうか。また,Spirogyra(アオミドロ)のように,接合子を見ないと種類がわからないというものも出てこないとも限らないであろう。電子顕微鏡など使っていない小中学生のクラブ活動での研究や夏休みの自由研究なども立派な価値がある。優れた小学生の自由研究がへたな専門家の研究などより重要な発見をすることだって十分ありうるのだ。その意味からも,優れたわかりやすい珪藻図鑑は絶対必要であろう。
- このサイトの目的と存在価値
以上述べたように,このサイトの目的は,「専門家の先生方にすぐれたインターネット珪藻図鑑の製作をお願いする」ことにある。淡水ケンミジンコの専門家の数は非常に少ないとのことだが,珪藻に関しては「日本珪藻学会」という独自の学会まであるほどだから,専門家の数も非常に多いはずである。多くの専門家が分担すれば「インターネット珪藻図鑑」の製作もそれほど大変なことではないのではなかろうか(そんなのはシロウト考えだといわれるかもしれないが)。ただ,このサイト自体にも1つだけ存在価値があると思っている。それは,「徹底的に初心者向けに書いた」ことである。専門家の先生が書いたものは,どうしても初心者には難しいものになりがちである。往々にして専門家の「常識」が初心者にとっては難しいことがあるからである。そこで,ここでは,たとえていえば「シジミチョウの仲間にも後翅にも尾状突起をもつ種がある。したがって尾状突起をもつというだけでアゲハチョウの仲間だとしてはならない。」といったような,蝶マニアにとっては実にばかばかしいようなたぐいのこともなるべく記述した。蝶ならば誰でも見たことがあるだろうが,珪藻など全く見たことがないという人も案外多いと思われるからである。確かに専門家の目からみればこのサイトの内容は実にひどいものである。しかし,はっきり言って「専門家だけを相手にしている専門家」にこのサイトを非難する資格はないと考える(誤解のないように言っておきますが,別に「専門家だけを相手にしている専門家」そのものが悪いといっているのではありません。また,同定や記述の誤りのご指摘は大変ありがたく思います)。シロウトのための優れた「ネット図鑑」を製作された後ならば,どんな厳しい非難でも甘受するつもりだし,このサイトも閉鎖しろといわれればさっさと閉鎖するつもりである。「日本の珪藻研究の水準は世界のトップクラス」とある専門家は誇っている。そのとおりではあろうが,私には素直に納得できかねる。いくら専門家のレベルが上がっても,シロウト向けの珪藻の図鑑も入門書も生理,生態を扱った書籍もほとんどなく,ネット上のサイトの数も少ない現状ではたしてよいのであろうか。私には大いに疑問に思わざるを得ないのである。
- 追記
一番初めに,「このサイトをご覧になった珪藻の専門家の方は・・・・」と書いたが,そう考えること自体が甘く,現実はもっと厳しいのかもしれない。このサイトそのものが大部分の専門家からは完全に無視され,全く見てももらえない可能性が一番高いような気がする。先ほどの非難をよこした人はまだありがたい存在かもしれないのだ。少なくとも私の作ったサイトを見てはくれたのだから。しかし,私のサイトが無視されること自体はべつにかまわないが,多くの専門外の人が適当な図鑑や参考書(書籍やネット上のサイト)がなく困っている事実を無視してもらっては困る。東京学芸大学の真山茂樹先生のように一般への知識の普及,啓蒙に努力されている方もいらっしゃるが(もちろん真山先生だけでなく他にも大勢いらっしゃるでしょう),全体としてみれば,日本の珪藻学界は「部外者には冷たい学界」という印象は否定しがたいと思う。残念ながら,淡水微小生物の他の分野も似たようなもので(出版社のほうにも問題があるのかもしれないが),もっといろいろな図鑑,参考書が書籍,ネットを問わず出てきてほしいと強く願うものである。
- 追記その2 2004/3/2
ついに,待望の専門家の先生によるインターネット珪藻図鑑ができました。琵琶湖博物館の大塚泰介先生による珪藻図鑑です。言うまでもないことですが,このサイトなんぞよりははるかに充実しており,写真もすばらしく,記述も正確です。このサイトに失望した方は,ぜひ大塚先生の図鑑のほうをご覧になるようお願いします。